こんにちは。企業研修講師の竹内豊です。
 新型コロナウイルス(COVID-19)感染が世界的な拡大を見せ、企業活動を含む社会のあらゆる活動に大きな影響が及んでいます。さまざまな組織活動を主催・管理する側が、日々刻々と変化する情報をスピーディに収集・分析し、判断に迫られるという、予断を許せない状態です。
 研修会社であるアイシービーにも多数の企業さまから、この時期、社員向け研修を開催しても良いかどうかについてお問合せを頂戴しています。このコラムでは、多くの企業で開催が近づいている新入社員研修における新型コロナウイルス対策について、ご一緒に考えていきましょう。

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 【目次】
1. 新入社員研修は中止して良いか?
2. 研修中止を決定する際、同時に考慮したい「3つのポイント」
3. 研修中止に加え、リスケも難しい場合の代替対処
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1. 新入社員研修は中止して良いか?
 
 新入社員研修は単なる季節恒例イベントや交流行事ではなく、企業が人財資源(ヒューマンリソース)を育成し活用するための大きなスキームの中で、重要な意味を持つ教育機会です。新入社員、中堅社員、管理職、経営層といった各階層別の人財育成を計画的・機能的に遂行する初期段階にあって、欠くべからざるものです。仮に、「階層別人財育成を適時適切に遅滞なく行う」という観点のみで捉えるならば、新入社員研修は中止すべきではないといえます。
 一方、今回は疾病・感染症要因による事態であり、日本国内でも政府主導でさまざまな緊急・異例措置が行われている状況にあります。社会の公器である企業側の努力・協力によって感染を少しでも食い止め、かつ自社従業員とその周辺者及びステークホルダー全体の安全を確保するという「企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)」の観点を持つことが、極めて重要です。従って、感染拡大か収束かの瀬戸際にある現段階では、研修中止という判断はやむを得ないものである(ベストと断言はできないもののセカンドベスト或いはベターであることは確か)といってよいでしょう。

 多くの企業では今、この「階層別教育の重要性」と「社会的責任」という二要素を慎重に考慮の上、新入社員研修の開催可否について苦渋の検討がなされています。2020年度は多くの企業において、新入社員研修が3月最終週から4月第1週にかけ集中的に実施されます。研修運営が外部発注型であるにせよ内製型であるにせよ、現時点ではカリキュラム策定や受講対象者への周知といった研修準備が着々と進み、「後は当日を迎えるだけ」という状態までこぎつけている企業も多いはずです。現段階で既に多大なコストを投入しているケースも十分考えられます。
 走り出している人事計画についてこれほど急遽の変更を検討するにあたり、人事部門単体だけでは意思決定が難しく、経営的判断を要するケースも多いことでしょう。各企業ご担当者さまのご苦悩・ご苦労は察するに余りあります。

 繰り返しますが、研修中止が人財資源(ヒューマンリソース)活用へのマイナス影響につながる点は、見過ごすことができません。あえて大袈裟に言えば企業活動の持続可能性(サスティナビリティ)とも無関係ではない問題であって、少なくとも「行事を中止しさえすれば良い」という場当たり対処の意識では、後に禍根を残してしまいます。業種・職種ごとに異なる「新入研修中止によって実務上起こり得るリスク」について、人事担当者が可能な限り予測を深め、先手の対処を打つこと(危機認識・危機予測に基づいた行動/リスクマネジメント)が大切です。たとえ新入社員研修を中止したとしても教育効果を担保できる施策を、具体的レベルで検討・計画し、遅滞なく実行する必要があります。

2. 研修中止を決定する際、同時に考慮したい「3つのポイント」

研修中止の検討を進めるにあたり、運営側(企業内では主に人事担当)が考慮したい3つのポイントをお伝えいたします。

①「本当に中止すべきか? 運営方法変更によって対処できないか?」を先に考える

 受講者個々人が感染しないこと・他者にも感染させないことが重要です。それを果たすために取ることのできる道は、一概に中止だけとは限りません。中止しない場合の工夫策として、以下を紹介いたします。

●分散開催/時間短縮
 集合人数を減らし、同じ研修を複数回実施することが可能かどうかを検討するとよいでしょう。また、研修1回あたりの所要時間についても短縮を図ることができないかを検討し、多人数が長時間集合するという状態を少しでも避けられる工夫を考えることが大切です。

●リモート開催
 Web会議システムや動画配信システムを活用する方法です。インターネット環境とアクセス権限があれば、遠隔でもリアルタイムで同時参加できるシステムです。自宅でのテレワーク以外にも、会社に出勤した状態で集合場所を分ける、サテライトオフィスを使用するなど、遠隔参加の形態をとることができます。
 この方法の場合、言うまでもなく機密漏洩を防ぐための対策(情報セキュリティ対策)も不可欠です。また、同じ空間で行う研修ではないことから研修効果が低下する可能性があるため、講師はそれを踏まえた進行指示(インストラクション)を工夫すべきです。少なくとも「情報が一方的に流れる画面を見っ放し」という状態に受講者が陥ることは避けましょう。たとえ画面越しであっても、音声や文字情報の交換によって、双方向性のあるコミュニケーションを実現できれば何よりです。

●グループワークの変更
 研修中、グループワーク等による共同作業やディスカッションをどの程度行うべきか、見直すことです。新入社員研修ではとりわけ、「受講者が講師からの教示のみに頼らず自ら進んで答えを発見する」「他者とコミュニケーションを深めながら協業して課題解決する」という目的から、グループワークの機会が多く設けられます。感染対策のためにはイレギュラー対処として、グループワークの実施方法(研修全体に占めるグループワークの時間数や会話ボリューム)についても再検討をするとよいでしょう。グループワークを削減しても教育効果を落とさないためには、講師側の進行指示(インストラクション)に工夫を加える必要があります。

●研修室内の環境への工夫
 換気をこまめに行える部屋で実施する、受講者同士の距離を一定に保つ、受講者はもちろん講師やオブザーバーもマスクを着用する、アルコール消毒液を設置する、研修テキストその他の資料は手渡しや都度配布を避ける、備品の共用には十分注意を払う、など。

②中止して終わりではなく、可能な限りリスケを検討する

 新入社員研修は階層別人財育成の初期に重要な役割を果たす教育機会です。社会全体での新型コロナウイルス感染状況をよく見極めながら、なるべく早いタイミングでの実施を検討するとよいでしょう。「2020年度新卒のみ初期教育が受けられなかった」という事態を避けるための検討をお勧めします。

③リスケ後のカリキュラムを再検討する

 4月後半や5月以降などに日程をずらす場合、受講者は入社後の実務をある程度経験した後に、研修を受講することになります。職場環境や業務内容について何も予備知識や経験もないまま受講する状態とは違い、たとえ僅かな期間であっても社会人として過ごした経験を持っています。その経験に紐づけて学習を深められるカリキュラムを構築できるとよいでしょう。

3. 研修中止に加え、リスケも難しい場合の代替対処
 研修中止はやむを得ない上、延期開催も難しいという企業も、少なくないことでしょう。例えば新入社員の勤務地拠点が分散しているために、現場配属された後は一か所に集合させることが困難であるといったケースです。この場合、配属先に教育スキルを持った上司や先輩がいるかどうかが、教育効果を落とさないための重要な鍵ですが、各拠点均一に教育を施せる態勢を構築しきれていないというのは、多くの企業が共通して抱える課題でもあります。
 また、新入社員研修のテーマとして主軸に挙げられることの多い「社会人としてのマナー」「仕事の進め方」「チームワークと組織内コミュニケーション」「接客スキルと接客コミュニケーション」等については、教える側にも一定の専門的スキルが必要であるため、企業内で完全内製化することが難しい分野でもあります。(※→付随情報として最下部へ)

 そこでお勧めしたいのが、教材による代替です。集合学習ではなく自習を前提として、よく練られたプログラムのことを指します。
 これについても、「新入社員に教材を渡しっぱなしで後は放置」という状態には決してせず、集合研修に近い効果を引き出せる内容にまで、教材一式の内容と運用方法のクオリティが高められている必要があります。新入社員が現場配属された後の円滑な業務遂行を助けるためです。そのため教材活用という代替策を取るにあたっては、「基礎教材(テキスト)」はもちろんのこと「効果測定のためのテスト」「能力定着や継続のための各種ワーク」なども大いに盛り込むべきです。同時に、教育を受ける当事者である新入社員がそれらをどう活用するかという運用フロー(教育効果定着のための仕組み)についても、十分に考慮することが求められます。

 新型コロナウイルス対策という異例・緊急事態への対処とはいえ、過去から蓄積されたノウハウにはないナレッジを活用して教材整備や運用フロー策定まで急遽進めることは、難しい場合もあると考えられます。
 長い歴史を重ねる研修会社アイシービーでは、各クライアント企業さまの教育課題に合わせた効果的な教材提供を行なってきた実績を持っています。どうぞお気軽にご相談いただければ幸いです。担当コンサルタントが各社さまのご状況を伺い、最適な方法を提案させていただきます。

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※付随情報
新型コロナウイルス対策による企業(店舗)の営業時間短縮、サービス縮小、或いは企業側の意図とは関係なく起こる物流低下や品薄等に関し、サービス業・販売業の企業で、利用客からのお問合せやクレームが増加しています。スタッフがそれらに適切に応対できるスキルが、現在、緊急的に発生している教育課題です。これらについても本コラム掲載内容をご参照の上、お気軽にアイシービーにご相談ください。

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